ニューヨークやベルリンで圧倒的な落書きの巣窟を眺めたことがある。
それらは昔の甲子園のツタみたく建物を覆い尽くし、体積を増した様な威圧感を与えていた。
誰かの自己主張の上に幾重にも主張を重ね、傍若無人にクズの咆哮が堆積していた。
許容を超えた数で織りなす視界は、個々の素材が何であれ私たちの興味を惹きつけるもので、
上手く言えばアートとごまかせる。
ここ尼崎にも、ポツポツと落書きは存在する。それらは、世界中で数億回煎じられた手法に基づいて、
フォーマットとノウハウの構築されたグラフィティの末端達だ。
” ポツポツ”と書いたように、建物の構造をぼやけさせるほどのボリュームを要している訳でもなく、
落書きの前後に文脈も見えない。
言葉が過ぎた。「スイマセン」
張り巡らされたポスターは、落書きを見事に消してはいない。
それは、ポスターの役割を仮設性の演出に充てたからだ。ポスター自体もまた、仮設的素材である。
仮設性が必要な理由は、ストリートカルチャーの代表格であるラップの即興的言語構築の際に生み出される
「繋ぎ言葉」にある。
繋ぎ言葉は、即興で言葉を紡ぐラッパーには多用される。
繋ぎ言葉はそれなりのセンテンスを抱えていても、言葉として意味を持たない。
空気感、流れを重要視した上で使われる仮設の言葉として、繋ぎ言葉もといfillersは存在するが、
物語外にあって意味は存在しない。
ポスターには具体的な内容を何も描かない。
印刷されるのは、落書きされている壁の、落書きされていない部分の写真だけだ。
それらを、落書きを覆うように貼っていく。
ポスター同士には一定の隙間を開けて、隠している落書きの存在を消し切らないようにする。
あくまでも仮設のポスターは隠滅までは狙っていなく、上の句をチラチラと見せ、下の句を待つ。
下の句は展示後にしっかり用意されていて、完膚無きまで塗り倒す。
消すという工程にストリートカルチャーが生み出す作品の過程を組み込んだ。
この作品は、落書きに対抗しているのでなく「やめろ」と応答している。
year 2023
ポスターの展示については落書き防止の啓発及び清掃活動の一環として尼崎市にご協力頂きました。
期間 2023.1.20(金) 〜 3.31(金)
場所 下記マップ参照
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